2019年7月 1日
温故知新~風習から学ぶ夏の過ごし方
じめじめした梅雨の時期が終わると、いよいよ夏本番!!夏休みの計画を立てて楽しみにされている方もいるのではないでしょうか。夏のイベントといえば、夏祭り、花火大会、海水浴、キャンプなどが思い浮かびますが、そんなイベント盛りだくさんの夏を楽しく元気に過ごすための養生法と行事食についてお話したいと思います。
1. 養生の基本
日本には『四季』があります。その季節や個々の体質に合わせて、常日頃から体を大切にする生活習慣を続けることが、体調を大きく崩すことなく生活するためのコツです。
例えば、
・暑いときは極端な日差しを避ける
・寒いときはしっかり保温する
・エアコン、加湿器、除湿器をうまく利用して、室温・湿度を調節する
・旬の時期に旬の食材を食べる
・体質に合わせて食べる、食べ過ぎない
などがあげられます。
2. 梅雨と夏
『梅雨』
じめじめと雨が続く6~7月頃の『梅雨』と9~10月頃の『秋雨』。これは日本特有の気候で、養生の要となる季節です。"湿気+暑さ"や "湿気+寒さ"で蒸し暑い日や、急に冷える日があり、体が対応しにくい時期なので上手に温度調節をしましょう。湿気が多いと、むくみや体の重だるさ、胃腸など消化器系の不調、関節痛などが出やすくなります。室内の湿度を下げるのはもちろん、体に溜まった湿気も食事のとり方を少し気を付けるだけで減らすことができます。体内の「湿」を増やさないために、過剰な水分摂取や、夏バテの原因となる冷たい食べ物や氷の入った飲み物は避けましょう。メロンやキュウリなどのウリ類は体を冷やしつつ湿気を取り除く作用があるので蒸し暑いときにおすすめです。また、豆や豆製品は体内の「湿」を減らしてくれます。豆類は総じて温めたり冷やしたりする作用が温和なので、どの体質の方にも利用しやすい食材です。
『夏』
梅雨が明けたらいよいよ『夏』。一般的には梅雨明けから8月末~9月初旬までを夏と呼びますが、最近は残暑が続き10月くらいまで暑さが長引くこともあります。気温が30℃近くまで上がるなら夏と判断していいでしょう。この時期は心も体もバリバリ動かして、外へ向かって気を発散させていくことで、体内の熱のバランスが取れるようになります。汗をかきたくなくて冷房の効いた部屋に閉じこもっていると、冬の冷え性を助長したり、夏バテの原因になったりするので冷房の使い過ぎには注意しましょう。とはいえ、適度に室温を下げないと熱中症を引き起こす危険があるので、前述の通りエアコンや除湿器をうまく利用して快適に過ごせる室温・湿度に調節しましょう。この時期は体の熱を冷ます作用の強い夏野菜たっぷりの食事や発汗作用のあるスパイシーな食事がおすすめです。肉類や揚げ物は体を温める作用が強いので、体力をつけようと食べ過ぎると熱がこもって逆にバテてしまいます。しかし、暑くて食べにくいからと、タンパク質や脂質を完全に取り除くとそれはそれでバテてしまいますので、他の季節よりは控えめに、きちんと摂るようにしましょう。
3.食の歳時記
7月
『半夏生(はんげしょう)』
7月2日頃、夏至から数えて11日目から5日間を「半夏生」と呼び、昔は田植えの目安でした。半夏生のいわれには、漢方薬に使われる半夏が生える頃という説があります。各地で豊作を願う行事や様々な習慣がありますが、関西では、作物がタコの足のようにしっかりと根を張ることを願ってタコを食べる習慣があります。タコには疲労回復効果のあるタウリンが多く含まれているので、田植えで疲れた体にとって効果的な食べ物といえます。
『七夕』
7月7日、五節句のひとつ。中国に古くから伝わる牽牛星と織女星の伝説に基づいた星祭りの説話と、日本古来の農耕儀礼や祖霊信仰が結びついたものといわれています。願い事を短冊に書いて笹に飾る風習は日本特有のもので、元々は中国から伝わった宮中行事「乞功奠(きっこうでん)」の習わしからきており、裁縫や習字の上達を星に祈るものでした。後醍醐天皇時代、宮中における七夕の儀式で、熱病を流行らせた霊鬼神が子供時代好きな料理で祟りを鎮めるとされていた「索餅(さくべい)」が供えられました。やがて、策餅は舌触りの良いそうめんへと変化し、七夕にそうめんを食べるようになったようです。
『土用の丑の日』
7月23日頃、夏以外にもあり、立春、立夏、立秋、立冬前のそれぞれ18日間を「土用」と呼びます。昔から厳しい暑さを乗り切るために「土用の食い養生」という習慣がありました。「土用しじみ」や「土用餅」、「土用卵」などといわれます。また土用には「う」のつくものを食べるという説もあります。うなぎと梅干しは食い合わせが悪いといわれていますが、科学的根拠はないようです。むしろ梅干しには脂っこいうなぎの消化を助ける働きがあり、相性が良いといえます。ちなみに、土用の丑の日にうなぎを食べる習慣になったのは、江戸時代の蘭学者・平賀源内が、不振のうなぎ屋に相談され、「本日、土用の丑の日」とはり紙したところ飛ぶように売れたことがきっかけと言われています。
8月
『盂蘭盆会(うらぼんえ)』
8月13日~16日、お盆の正式名称。夏に先祖の霊を供養する行事で元々は7月13日~16日に行っていました。精霊棚に位牌を並べて様々なお供え物をします。代表的なものは「キュウリの馬(早くこの世に着くように)」、「ナスの牛(ゆっくりあの世へ戻るように)」、「白玉団子(浄土へのお土産)」でお盆の間は1日3回精進料理を供え、家族も同じものをいただきます。精進料理の「精進」とは仏の教えによって仏道修行に努めることです。肉類などの美食を避けて野菜・山菜・穀類などを中心にした粗食を食することも修行の一つと考えられており、「殺生をせずに、心身を清める」という意味もあります。
9月
『重陽(ちょうよう)』
9月9日、五節句のひとつ。古代中国の陰陽説では奇数は縁起の良い陽の数とされていて、陽の最も大きい数が重なる9月9日は「重陽の節句」と呼ばれ盛大に祝いました。別名を「菊の節句」といい、邪気を祓う菊を用いて祝う習わしがあります。収穫祭の意味合いもあったことから「栗の節句」とも呼ばれ、栗ご飯と菊酒で祝いました。
『十五夜』
9月中旬頃(旧暦8月15日)、旧暦で秋は7~9月を指し、そのまん中の日「中秋」は旧暦の8月15日のことをいいます。「中秋の名月」「十五夜」と呼ばれ、古来より月を鑑賞する風習がありました。また、十五夜は秋の収穫を祝う行事でもあり、芋類の収穫を感謝しお供えすることから「芋名月」とも呼ばれます。月見のお供え物の定番「月見団子」の数には二つの説があり、ひとつはその年の満月の数で通年は12個、うるう年は13個というもの。もうひとつは十五夜だから15個という説。または「芋名月」の名の通り、里芋やさつま芋をお供えします。お供え物は食べてよいとされるので、月見を楽しんだ後は美味しくいただきましょう。
『秋分の日』
9月23日頃、二十四節気のひとつで、秋の彼岸の中日にあたり、先祖の墓参りをする風習があります。太陽が真東から昇って真西に沈む、昼と夜の長さがほぼ同じになる頃といわれますが、正確に同じになるのは数日後のことです。この時期「おはぎ」が売られているのをよく見かけますが、実は「ぼたもち」と同じものです。語源については諸説ありますが、春、牡丹の咲く春分の頃には小豆餡の様子を牡丹の花に見立てたことから「ぼたもち(牡丹餅)」と呼ばれ、秋、萩の花が咲く秋分の頃には同じく小豆餡の様子を萩の花に見立てたことから「おはぎ(御萩)」と呼ばれています。
古くから季節ごとの行事や儀式に食べられていた料理にはいろいろな意味が込められています。また、旬の時期にその食材をいただくことは私たちの体にとってとても大切なことです。最近では行事食を知らない方も増えてきており、意味合いが薄くなってきていたり、食材の旬がわかりにくくなっていたりしますが、日常生活に上手に取り入れて健康作りに役立ててみてはいかがでしょうか。
アルカでは所属栄養士が毎月、季節やテーマに沿ったレシピを発行しています。店頭配布、インスタグラムへの掲載も行っていますので、ぜひご覧ください。
今回の担当は、管理栄養士の松川でした。
(参考文献:「養生こよみ」若林 理砂 著 飛鳥新社
「春夏秋冬を楽しむ くらし歳時記」 生活たのしみ隊 編 成美堂出版)